救急部 菊田 正太
2019年3月19-22日にベルギーの首都ブリュッセルで開催された第39回国際救急集中治療会議(International Symposium on Intensive & Care and Emergency Medicine, ISICEM)に参加してきたので報告します。
ISICEMは、1980年の第1回から全てブリュッセルで開催されている歴史ある学術集会であり、今や世界100ヶ国以上、6,000人以上が参加する大規模な学会でもあります。文字通り救急・集中治療の内容がバランス良く配備されており、個人的には米国集中治療会議(Society of Critical Care Medicine, SCCM)よりも好きな学会です。
初めて参加した4年前と同様、世界遺産グランプラス近くのコンベンションセンターでの開催とあって、地理的な心配は特にありませんでした。ただし、出発直前に起きたニュージーランドの銃乱射事件が人種主義思想、反移民感情を抱く白人によるものであったため、移民の多いブリュッセルの治安を不安に思いつつ関空を出発、前日入りしました。アムステルダム経由の当日にオランダでテロがあり、精神的に少なからず影響を受けました。現地入り後、京都府立医大時代をともに学生寮で過ごして淀川キリスト教病院救急部でも同僚だった後輩救急医と食事をし、翌初日の発表に備えました。
学会の内容については前回同様、神経集中治療、ARDS、ECMO、腎代替療法、敗血症、栄養療法などに多く時間が割かれ、他に病院前医療、ICUでの看取り・グリーフケアなどもありました。外傷については多発外傷、重症頭部外傷しかセッションがなく残念でしたが、当院で不定期開催しているガイドライン勉強会でもチェックした欧州の外傷初期蘇生ガイドラインの改定速報を聴くことができたことは収穫でした。
自分の発表はというと、事前にアップロードした内容を電子パネルに提示させて発表するe-poster形式であったため実際の紙や布のポスターを持って行く必要もありませんでした。今回、外傷性窒息(胸腹部の強い挟まれによる重症病態)に関する報告をしてきました。外傷性窒息(Traumatic asphyxia)、、、字面では窒息という用語が使われているため低酸素脳症で予後不良と考えがちですが、当センターの過去16例の検討では心停止例であっても社会復帰率は決して悪くありませんでした。心停止に至る原因が全て呼吸不全とは限らず、緊張性気胸や心タンポナーデなどの閉塞性病態も関与している場合には劇的救命に繋がる可能性もあり、現場や院内でも簡便な治癒を積極的に行うことが望ましいという内容でした。座長や聴衆も好意的に捉えてくれていました。ちなみに前回は、普段ICUで熱傷やフルニエ壊疽などに活用している便失禁管理システム(フレキシシール、ディグニシールドなどの総称)の蘇生後患者への使用が菌血症の抑制にも寄与する可能性を報告しました。このように、本学会は救急、集中治療に関わらず演題採択の門戸が広いことが特徴です。教育講演も多く用意されており、救急・集中治療の幅が広がることはもちろん、国際学会の経験を積むにもうってつけの学会と思います。なお、日本人の参加は今回10名程度と少ない印象でした。チョコレート屋、ベルギーワッフル屋は街の至る所にあり、ベルギー料理、ベルギービールなどと食に関しては論を待たずです。世界遺産グランプラスと街中に敷き詰められた石畳は荘厳で美しく、あらゆる面でおススメです。強いて挙げるならばテロですが、2016年に同時多発テロの起こった鉄道、空港のどちらにも銃を持った警察官が多数おりました。守られていることで安全なような危険なような複雑な感覚になりつつ、空港での犠牲者への大量の献花を眺めながら帰国の途につきました。
この度は長い不在の間ありがとうございました。