現在、国内でWeb 上に展開される災害救急医療情報システムには、大きく分けて2種類あります。
一つは厚生労働省が都道府県単位で整備を進めている、「広域災害救急医療情報システム:Emergency Medical Information System ( 通称 “厚労省の”EMIS ) 」であり、もう一つは各都道府県内で整備しているシステム(通称 “県の”EMIS)です。
兵庫県では、阪神・淡路大震災での教訓から、全国に先駆けて平成8年(1996)に県内システムを導入しました。平成25年7月現在、県内の医療機関353、行政28、消防49、医師会36、社会福祉事務所31などを含め計500以上の機関/組織が利用しています。
この兵庫県広域災害・救急医療情報システム(Hyogo wide area disaster, medical care information system)は、平常時の医療機関情報だけでなく、各圏域で行う訓練においても日常的に広く活用されています。一般に、平常時から「災害モード」にスイッチを切り替えるには大きなハードルがあります。「そこまで大げさに考えなくても」とか「この程度のことで全体に警報を鳴らすとヒンシュクを買うのでは」という具合です。
そこで兵庫県では「災害モード」という“敷居の高い”モードに対するスイッチの押しにくさを軽減するために、「緊急搬送要請」モード(エリア災害モード)を2003(平成15)年に導入しました。
その最大の特徴は、傷病者の搬送機関である消防(救急)が直接モードを切り替えて、同時に複数の医療機関に受入れ要請ができることです。例えば高速道路での多重衝突やイベント会場の事故などで、一度に多数の(5〜10名以上の)傷病者を複数の医療機関に搬送しなければならないと考えられる事案で消防本部が発動します(ほかに社会福祉事務所や医師会も要請可能)。
平時において仮想の状況で訓練として使用することを繰り返していると、実際の事案においても(例えば集団での熱中症や異臭騒ぎ)、迅速に消防の情報が医療機関に流れ、10件以上の医療機関の受入れ可否状況が即座に消防に提供されるようになりました。さらに、あっという間に数十人の分散搬送が可能な情報が集まります。救急隊も単に近い病院に運ぶのではなく、適切なトリアージによって過渡の集中を避けながら、適切な医療機関に搬送することができます。
最近1年足らずの間に起こった、山陽電鉄の脱線事故、福知山花火大会での爆発事故などでも利用されており、検証を通じて今後も訓練とシステムのバージョンアップを重ねていく計画です。